卒業式の日に告る時

〜プロローグ〜

 三月になっていよいよ三学期が終わろうとしていた。中学生は受験や卒業式が間近に迫っていてここ、綾部中学校の卒業式も近かった。

 春が近くなり、日中の気温は温かくなってきているが、朝と夜は未だに冬のような寒さ。朝は布団から出たくないとか、夜は足が寒いとかよくある。

 学校も残り一週間で、九日後には合否発表がある。

 受験勉強もそんなにせずに、今か今かと受験日を待っているのこの俺、宮山 崇尋(みややま たかひろ)であった。


〜第一章〜

 月曜日。それは一週間の始まりの日。俺は中学校へと向かっていた。

 寒くてもジャンパーを着ずに登校している俺は、慣れれば寒くないと思っていたわけだが、どうやら悪天候続きで気温が上下しやすいのか、

今日はとても寒い日であった。せめて、手袋やマフラーをすればよかったな。

 などと思いながら緩い坂を上っていると、後ろからやってきた友達が声をかけてきた。

 「よ、元気か?」

 友達は俺の横に着いた。

 「とてつもなく寒い。防寒具、何か貸してくれ」

 「やだね。持ってこない方が悪い」

 「友達が困っているのに助けてくれないのか? 淳」

 こいつは谷山 淳(たにやま じゅん)。幼馴染であって、よく俺に絡んでくるのだ。

 「防寒具は貸せないがアドバイスならやる」

 「お、なんだ?」

 俺はそれが気になって聞き入ってしまった。

 「学校まで走れ。身体が温まるぞ」

 「サンキュー。じゃあな」

 俺はそう言って、早速淳のアドバイス通りにこの坂を走ってみた。運動部ではない俺にとってはちょっとキツいけど、これぐらいがちょうど良いだろう。

 俺が軽めに走っていると、後ろから淳が走ってきた。

 「待てえぇぇっ!!」

 「いぎゃあぁぁぁっ!!」

 朝からリアル鬼ごっこが始まった。

 「な、何で追いかけてくるのさ――っ!!」

 「時間だ時間っ!! もうすぐ正門が閉まるんだよっ!」

 すると、正門が少しずつ閉まっているのが先方に見えた。

 「ヤベっ。全速力で走るぞ!」

 「ったりめーだ!」

 俺と淳は全速力で中学校へと向かった。門を閉めていた作業員の人は吃驚して、その作業を中断していた。

この時期の成績は内申に関係はないが、残り数日の中学校生活に「遅刻」と言う二文字を刻みたくはないからな。

 全速力で走ったからか、後五分というとこで校内に入り、そしてチャイムが鳴るまでに教室に入れた。

 「ふぅ〜。淳のアドバイスはよく役に立つぜ」

 俺は俺の目の前に座ろうとしている淳に言った。

 「そうかい……。身体は温まったか?」

 淳は座ると同時にこちらに身体を向けて言った。

 「温かいどころか暑くなってきた。まぁ、良い。どうせもうストーブはつけないんだし」

 俺の席は中庭に面した窓側の列の一番後ろだ。

 そして、淳はお茶が入った水筒を手にしながら言ってきた。

 「お前さ、好きな人いるだろ」

 唐突過ぎて、俺は動揺してしまった。

 「な、何で知ってんだよっ! っていうかどこからその情報を仕入れた!?」

 「で、どうなんだい?」

 「……いるけど、何だよ」

 淳に教えるのはここまでだ。誰が好きかなんて言わねぇ。

 「やっぱし。ま、俺もいるけどさ」

 あっさりと、好きな人がいることを告げた淳。

 「で、何だよ」

 「卒業式の日に告白大会やろうぜ。俺もやるからお前も参加な」

 大会も何も二人だけだろ? まぁ中学時代の思い出作りになら別に構わないが。

 「じゃ、決定っ!」

 淳はお茶を一口飲んで、こう言った。

 「成功しても失敗してもちゃんと俺に言えよっ」

 淳は小さい時から有言実行なタイプだ。言った事を必ずしていたから、嘘ではないんだろう。

 「はいはい」

 俺は返事しながら考えていた。

 さて、好きな人ならいるんだがどう告白しよっかな。その人は同じクラスだし、何度か会話しているから友好関係は良いはず。

だけど、どうやって呼び出そうかなぁ……。

 チャイムを左から右に聞き流し、俺は考え事をしていた。黒板に書かれていた文字が暗号のように見えたのはきっとその所為だろう。

 そして昼休み。俺は淳と、三年の四月に知り合った安井 瑛斗(やすい えいと)と弁当を食べていた。そして、淳は瑛斗にも言った。

 「安井、卒業式の日に告白大会するけど参加するか?」

 瑛斗は俺の好きな人と同じ小学校だったらしいが、生憎クラスが違ったためその人の事は訊けなかった。

 そして瑛斗は予想外の言葉を告げた。

 「遠慮しとく。彼女いるから」

 俺と淳は驚いて、箸の動きが一瞬止まった。

 「「いるだとっ!?」」

 俺と淳はハモった。

 「で、詳細は!?」

 「誰が教えるかっ。いないくせに……」

 「言ったな〜。皆に言ってやる」

 「馬鹿っ、やめろ。ったく、言えばいいんだろ……」

 その淳の言葉に瑛斗は簡単に折れた。どうやら言いたくなかったらしい。まぁ、これが普通だろう。好きな人のことなんか誰にも言わないからな。

 「で、誰なん?」

 瑛斗は周囲を一回見回して、近くに俺ら以外いない事を確認して小声で言った。

 「……宮木 悠(みやぎ はるか)だ。誰にも言うなよ」

 俺と淳の口が開くと、同時に瑛斗が「言うな」と口パクで言った。

 「何で彼女にしようと? どちらから告白?」

 おい、淳。そこまでにしとけっ。瑛斗の眼が泳いでるのが見えないのかっ!

 「そりゃ……可愛いし、もう皆の前で抱きつきたいほど好きだからだよ。告白は俺からだ。お前らと友達になる前に、な」

 「となると、もうすぐ一年ってとこか。良いカップルだな。それと……」

 どうやら、俺は蚊帳の外のようだ。弁当も食べ終わったから、教室を後にしてとある場所へと向かった。

 そこへ行く途中、担任の先生とすれ違った。

 「受験勉強は頑張っているか?」

 いつも先生は特に俺と淳に言ってくる。まぁ、中一や中二があれだったし。

 「まぁ、何とか。頑張って追いこんでいます」

 とりあえず、適当に言っておこう。

 「そっか……。合格できるように、悔いのないようにをするんだな」

 「はい」

 そして俺は再び歩き出した。とある場所とはコンピューター室だ。ここにたまに来るのが日課になってしまった。

新しいゲーム情報やタイピングなどと楽しいからな。

 コンピューター室は既に開いていた。中に入り、いつもの場所に座ってパソコンを立ち上げる。すると、パソコン部部長が横に来た。

 「今日も来てくれて光栄だよ。そんなに日もないし入試だって二日後にあるんだから来ないかと思ってたよ」

 「昼休みは憩いの時間だから大抵来るよ。一勝負しようぜ」

 「望むところだっ」

 こうして、部長とのタイピングバトルが行われた。激しいタイピングの音がコンピューター室に響く。激闘の末、勝ったのは俺だった。

 昼休みが終了し、掃除の時間が来た。俺の班(淳と他四人)は掃除がないので淳と一緒に帰る事にした。

帰りの会は四時間目の終了直後に済んでいる。

 「で、淳。瑛斗は他に何か言ってたか?」

 ちょっとだけ気にしていたのだ。

 「デートとか、どちらかの家に泊まりに行ったとかはまだも無いって言ってたぞ。まだまだ初心者だな」

 何の基準からして初心者なんだ?

 「秘密。ま、お互い頑張ろうぜ」

 受験もな。二日後だぞ。まぁ、勉強していない俺が言うのもあれだけど。

 そして分かれ道で淳と別れ、帰宅している途中に、俺はふと思った。

 受験はまだしも、告白できるのか? と。




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